（１）上泉信綱の出自

（１）　上泉信綱の出自

大胡城跡

　　　永禄六年頃上野国から上洛し元亀二年に言継卿の紹介状を携えて下野国へ下向する迄の期

　　　間、禁裏の上級公卿との交遊や「武蔵守」「四品」の官位官途を賜った事歴から上泉信綱が

　　　「一介の落武者の武芸者が兵法修行から成り上がったとする」柳生家伝承や武術流祖録等

　　　の伝系図は間違いである事は明白です。上泉信綱の出自から検証を始めましょう。

　　　（一）歴名土代に上泉信綱は「上野国上泉住大胡武蔵守」と記録されています。

　　　（二）永禄八年八月宝蔵院覚禅胤栄への印可状、永禄九年五月柳生宗厳へ授与した「影流

　　　　　　目録」に「上州の住人上泉伊勢守藤原秀綱（影目録での署名は藤原信綱に変わる。）

　　　　　　と「上州の住人」と署名しています。

　　　（三）永禄三年頃に成立した関東幕注文白井衆として上泉大炊助、箕輪衆として大胡（姓

　　　のみ）、引田伊勢守、と記録され、上泉氏、大胡氏、引田氏一族が前橋周辺に蟠蚷し

　　　ていた事が伺えます。

　　　（四）前橋市上泉町にある曹洞宗の禅寺「西林寺の過去帳」に「大胡伊賀守」と記録され

　　　ているのが唯一の「上泉氏」関連の資料らしいと思われます。今村嘉雄博士の「日

　　　本武道大系」での論考では「（西林寺の過去帳には）伊勢守秀綱・武蔵守信綱の俗名

　　　は見当たらない。」と記述されて、間接的に上泉信綱とは別人との説を唱えられてい

　　　ます。「過去帳への記載の仕方は全国一律で死没者の最盛期の官位官途を記すのが通

　　　例です。上州前橋地方は全国とは違い「記録にもない官位に下げて石碑に刻んだ。」

　　　等の強弁は学問の世界ではあり得ません。過去帳の「伊賀守」と「上泉信綱」が別

　　　人である事は明々白々疑う余地はありません。

　　　（五）関八州古戦録巻七　信玄西上野仕置付上泉伊勢守小幡泉龍斎カ事の条に「長野カ旧

　　　臣上泉伊勢守金刺秀綱ハ箕輪落城ノ砌抜テ東上野ヘ落行桐生大炊助直綱ノ家ヲ

　　　倚頼シテ在リシカ云々」　金刺秀綱と記録されている事から信濃の大族の金刺氏の

　　　一族、上泉・大輪・手塚・高木氏等と同族ではないかという一説もあります。

　　　（六）間違いだらけの前橋市史掲載「藤原姓上泉系図」　前橋市史（1973年、第五編近世

　　　上）に山形県米沢市の「上泉文書」から引用として「藤原姓上泉系図をp131～p135

　　　に掲載されています。「上泉文書」から引用する根拠に就いて編集者は「不明のもの

　　　を作文せずそのまま記しているところに正確さを追った系図と見る事が出来よう。」

　　　と訳の分からない注釈を加えています。大胡氏中興の祖「大胡義秀」は、今谷明、

藤枝文忠共著｛室町幕府守護職家辞典｝では、四職家一色義秀とは全く無関係とな

　　　っています。

四職家一色義秀の事蹟は蔭涼軒日録等確かな史料に依って記録されていますが一方、

　　　山形の「上泉文書」の系図を好意的に解釈しても「祖父一色義直がお爺さんの様な

　　　お年寄りを養子に迎え、「一色義秀」と云う名を実子の二男と同様命名し上泉城主大

　　　胡氏に養子に出した。」となってお笑い話にもなりません。公共の用としての前橋市

　　　史に斯様な系図を取り入れた事は軽率のそしりは免れません。

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